仙台の津波と都市計画
昨年に仙台に赴任して、初めて仙台市内の高層ビルから目にした仙台の風景に、異様な感じがしたのをよく覚えている。
仙台市内のビルからは遠く太平洋まで望むことができるが、太平洋側を見渡したとき、仙台の「市街地」と、市街地の周囲に太平洋まで広がる「農地」との区分のコントラストが鮮やかに見えたからだと思う。
高いところから見ると、仙台市の沿岸地域が田畑などの農地として利用されているのがよくわかるが、この風景は、湾岸を積極的に開発してきた東京で過ごしてきた私にとっては新鮮に見えた。
これは東京に限らず、大阪、福岡、広島といった海沿いに発展してきた大都市をみてもそうだが、都市の発展は沿岸・水辺の開発とセットになっている、という固定観念があるせいなのだろう。
しかし、仙台はこれらの水辺に広がる都市とは対照的である。海から離れた青葉山に城を築き、そこを起点に街が広がった、といった趣がある。宅地も、海沿いではなく丘を切り拓いて造られている。
仙台市の沿岸部が農地として利用されているのは、法によって規制されているからでもある。この農地のエリアは都市計画法による「市街化調整区域」にあたり、この区域では原則的には建築物を建てることができない。高層ビルから、市街地の農地とのコントラストが明確に見えるのもこの「線引き」のためである。
市街化区域と市街化調整区域
仙台市の市街化区域と市街化調整区域の区域区分を記したのが次の図（図１）である。赤の部分が市街化区域、緑の部分が市街化調整区域で、空撮と照合しても、この線引きを境に土地利用の違いが「市街地」「農地」と明確に表れている。法が、都市の風景を規定しているともいえる。
（図１）市街化区域と市街化調整区域
津波による浸水域
結論からいえば、この仙台市の区域区分のありかたが、東北地方太平洋沖地震での津波の被害を結果的に最小限にとどめたように思う。
津波による浸水域について記したのが次の図（図２）だが、海岸から5km以上の範囲が浸水域として被害を受けているのが分かる。また、実際に現地で確かめたことでもあるが、仙台東部有料道路がある程度、堤防のようにも機能したようだ。道路を挟んで、被害状況がずいぶん異なっているように見受けられた。
（図２）津波による浸水域
そして、区域区分（図１）と津波の浸水域（図２）のレイヤーを重ねたのが次の図である（図３）。津波の浸水域が、市街化調整区域とほぼ一致しているのがわかる。
仙台市は市街化区域の拡大抑止の方針を打ち出しているが、もし、区域区分の見直しで市街化区域をより沿岸に広げていたならば、被害はより大きなものになっていたはずである。都市防災、特に津波に対する観点が仙台市の区域区分にどのように盛り込まれているのかは未調査だが、この区域区分が防災上、功を奏したといっていいだろう。
それでも、仙台では荒浜をはじめとする、沿岸地域の古くからの集落は壊滅的な被害を受けた。これらの集落の周りは見渡す限り平坦であり、津波が襲ってきても逃げられるような高台が存在しない。そもそも一切の建築を許さない、という考え方もあるかもしれないが、今回の津波にも耐えたようなRC造の中高層建築を避難施設として建設するなど、古くからのかたちを維持しながら、防災機能を高めるような計画や設えが求められるように思う。
＜参考資料＞
http://www.hanadataz.jp/td/saigai2011/01sendai/sendai.htm
- 仙台市 せんだいくらしのマップ 防災マップ
http://www.city.sendai.jp/s-map/bousai.html
- 国土地理院 > 浸水範囲概況図
竹泉荘 Mt.Zao Onsen Resort & Spa
竹泉荘 Mt.Zao Onsen Resort & Spa
ギャラリーラウンジ。
パノラマビュースイート。琉球畳や仙台箪笥、西陣織による襖などの小物を効かせながら、和のテイストを基軸に仕上げられている。
ガーデンスパスイート。窓の外には内風呂とは別の露天風呂がある。
竹泉荘（ちくせんそう）は､破綻した宮城蔵王の老舗旅館を香港資本が買い取り、阿部仁史さんや橋本夕紀夫さんらがデザイン・空間をプロデュースしながら再生したホテルである。
多額の資本を投下した旅館再生の好例といえるだろう。元の旅館の面影は、過去に増築を重ねられた各棟の間のちょっとした段差やスロープなどに認められるが、それを除けば新築のようにもみえる。
逆に、増築を重ねたことにより各客室にそれぞれの個性が与えられており、それが一般的なホテルとは異なる旅館ならではの魅力であるようにも思われた。
ラックレートは室料のみの場合、￥42,000から。食事は、蔵王の地場野菜をはじめ宮城や三陸の素材を用いた上品な日本料理を、レストラン「竃神（かまじん）」で。バーも隣接している。
- 竹泉荘 Mt.Zao Onsen Resort & Spa http://www.mtzaoresort.com/
＜2011年4月7日追記＞
東日本大震災の影響を受け、休館のお知らせが掲載されています。
- 竹泉荘 > 休館のお知らせ http://www.mtzaoresort.com/blog/jp/2011/04/post-45.html
リノベーションシンポジウム東北＋事例視察 メモ
2010年10月30日、＜建築および集合環境のリノベーションによるストック化＞をテーマとするHEAD研究会という団体の主催する、リノベーションに関するシンポジウム＋事例視察に参加した。
地方都市の中心商店街の空洞化、人口の減少に伴う空き家の増加、高齢化、建築ストックの活用…等々、今日的な、そしてこれからの日本が構造的に抱える課題を、特に日本の「地方」においてどのように乗り越えるのか、そして、どのような可能性を導けるのか――今回の視察で訪れた事例はその一端を示すものであるように思われた。
・ 産官学（特に、仙台市の補助）の連携による、建物の転用・リノベーションと街の活性化
…case 1,2,3
・ クリエイティブ業種・アートとのコラボレーション
…case 1
・ 山形市における、大学の「若者」と共に推進するリノベーション
…case 5,6,7
・ 賃貸住居へのリノベーション・転用と採算
…case 5,6
仙台市中心部から約4kmの距離に位置する卸町（おろしまち）は卸売業に特化した特別業務地区（総合流通団地）として建設された町で、45年間仙台の物流を支えているが、物流システムの効率化や中抜きなどにより業態は変化し、空間的な余剰が生まれている。このエリアでは、現在建設が進められている地下鉄東西線の新駅が開業予定（2015年）であり、複数の施設を転用・改装し、連携しながら、卸・文化・居住の調和を目指した街のありかたを模索している。
- case 1 TRUNK creative office sharing
・ ビジネスホテルとして使用されていた卸町会館（築40年）5階をクリエイティブシェアオフィスへ改装
・ 2010年2月オープン
・ 38部屋稼働（稼働率100%）
・ 賃料 30,000円/月 期間は3年
・ 仙台市の行政支援 2,000万円/年（3年間）
＊TRUNK creative office sharing http://www.trunk-cos.com/
- case2 音楽練習場MOX
・ 2003年、第一種特別業務地区から第七種特別業務地区へ用途緩和
・ 卸町会館 地下1階の飲食街を転用、2003年オープン
・ 4つの練習室 （約7.5畳）
・ 2,200円/ｈ（非会員 2,500円/ｈ）
・ 会員数は約1,500人、年間1,400人程度が利用。2年目から黒字化
・ 仙台市で最も女性の多いスタジオ（完全禁煙）
＊音楽練習場MOX http://www.mox-sendai.com/
- case3 イベント倉庫
・ 遊休施設（倉庫）を利用し2003年オープン
・ 会田誠による滞在型作品展（2010年）など文化活動の舞台として利用
- case4 阿部仁史アトリエ
・ 倉庫を事務所に転用
＊阿部仁史アトリエ http://www.a-slash.jp/
山形市 Yamagata
建物の空室化・中心市街地の空洞化が顕著な山形市では、東北芸術工科大学 特任准教授の馬場氏が「山形R不動産リミテッド」を立ち上げ、学生と共に活動を推進。建物をリノベーションし、建物に対する使い方やデザイン、及びライフスタイルを提案している。
- case5 ミサワクラス
・ 山形市中心部の商業地区にある、旅館を賃貸住宅にリノベーションした施設
・ RC4階建、延床面積304平米、建築面積180平米 計12室
・ 改装費 約800万円 賃料 30,000円/月 8室は学生が住むという前提（保証）を付け、銀行から融資を受ける
・ 改装し人が住むようになり、1階のテナントも入居が増える
・ トイレ・風呂は共同
＊ミサワクラス http://gs.tuad.ac.jp/misawa/
- case6 花小路トランク
・ 山形市の古い花町の入り口にあったホテルをシェアアパートにリノベーション
・ RC3階建、延床面積 184平米、建築面積87平米 2・3階に計6室
・ 改装費 620万円 賃料 35,000円/月 学生が住み、満室（うち5室が女性）
・ 各部屋にトイレ・風呂あり
＊twitter > 花小路トランク http://twitter.com/hana_kouji
- case7 蔵オビハチ
・ 山形市の大正時代の蔵をカフェ・バーに転用
・ 2003年に「ヤマガタ蔵プロジェクト」により再生
・ 学生が中心となって改修を行う
・ 1ヶ月間限定のカフェ（イベント）として運営後、長期的な営業に向け改修を加えた
・ カフェ・バーとして利用しながら定期的なライブやアーティストの作品展示など地域に開いた活動を行う
