内子、酒六酒造と建築物の保存
内子の街並みの成立について
愛媛の伝建地区である内子へ。愛媛の重要伝統的建造物群保存地区は、この内子(八日町護国)と宇和町卯之町の二カ所が選定されている。
内子は製蝋で栄えた地区で、江戸後期に考案された技法により製蝋が産業化し、明治中期に最盛期を迎えている。しかし、大正時代に木蝋が西洋蝋に地位を譲ることで、産業は一気に衰退。一気に栄え、そして一気に衰退したことで、この製蝋の栄えた時期の伝統的な建築群が残ることになった。そのため、伝建地区に残る多くの建築は江戸後期~明治期のものであるようだ。
内子の街並み。クランク状になった「枡形」が見られる。
続きを読む本のメモ: デービッド・アトキンソン『新・観光立国論』
2015年に出版された『新・観光立国論』(デービッド・アトキンソン著)は、外国人旅行者が増加し、消費の拡大による「爆買い」という言葉が定着した一年を表すような一冊だと思った。
著者の主張と論旨は明確である。人口が減少する日本においてはGDPを維持するだけでも困難だが、そのような状況下で成長を目指すには「観光立国」により外国人の旅行者を増やすことが合理的であると説く。人口減少下においては移民が効果的であるが、移民政策の困難な”島国”日本では外国人旅行者=「短期移民」が重要だという。
以下に概要をまとめておこう。
日本は「気候」「自然」「文化」「食事」という観光立国の4条件を満たす国であるが、これまでに観光立国・観光産業に力を入れてこなかったことからも伸びしろがあるという。
また、訪日外国人客の特徴を分析すると、訪日数の多い台湾、韓国、中国はそれぞれテーマパークや食事、ショッピングへの関心が高い。一方、ヨーロッパやオセアニアからの訪日数は少ないが、観光における支出額が大きく、日本の文化や歴史への関心が高い。
これは訪日観光客を「外国人」とひとくくりにして見えてこないことであるが、観光立国にはそれぞれの国ごとに求めているもののセグメンテーションとそれによるマーケティングが必要で、その際に「多様性」(ダイバーシティ)はひとつのキーワードとなる。多様性を認識した上で観光コンテンツを細分化し、整備してゆくことが必要で、例えば日本に少ない”超高級ホテル”もそのひとつである。
その中で著者は「顧客」を明確化してゆき、ターゲットを「伸びしろが大きく、支出額が大きい」ヨーロッパやオセアニアからの観光客(=「上客」)に定めてゆく。そして、日本の文化や歴史への関心が高い、ヨーロッパやオセアニアからの観光客を増やすための方法として、まず手をつけるべきは「日本文化の体験」や「神社仏閣という歴史的資産」の整備、つまり「文化財」の整備だと説く。
日本は文化財にかけられる予算も小さいが、世界的に見れば日本の文化財が「地味」であり”ただそこにあるだけ”という状況になっていることからも、現状では不十分である「説明」や「ガイド」が重要であり、魅力を伝えていくことが大事だという。「稼ぐ文化財」というスタイルは日本の文化財に合うのではないかとしている(これは文化財の保存のためにも重要)*1。
2015年6月28日読了