mezzanine

開発業者勤務(東京・仙台) → 四国松山へUターン。建築・都市・街・不動産・観光などに関するメモ。

アトリエ・アアルト−外部空間、現象としてのボリューム

アアルト邸から歩いて数分くらいのところにある、アトリエ・アアルト。自邸のスタジオが手狭になったために建てられたそうだ。

アアルトのいくつかの建築のプランを眺めているとL字型の平面が多いことに気付くが、このアトリエもその例に漏れず、所員のアトリエとアアルトのアトリエ(ホール)のふたつがL字型に配置されている。(→平面*1

所員のアトリエ

アアルトのアトリエ(ホール)
話を一般化すれば、プランがL字型になることで立ち上がるのが、そのL字のボリュームに囲まれた外部の空間の存在だといえるだろう。外部に、ある性格が与えられるといっていい。現象としてのボリュームが立ち上がると言い換えられるかもしれない。
空間のそのような性格は、このアトリエにおいて明確な意図として表現されたといえるだろう。アトリエ・アアルトのL字型のボリュームによって囲まれた外部は傾斜を伴っているが、その傾斜は段状にレベルが与えられ、その傾斜を降りた先には一つの壁がたてられている(その後、この壁の後ろには食堂が増築され、現在に至っている)。それらの操作によって、壁は映画館のスクリーンや、あるいは舞台の背景とでもいえるような効果をもち、外部がある機能を持つようになる。
そうしたアアルトの意図は、ホールの壁が円弧状になっていることからも明らかだ。

もちろんこの円弧状の壁には窓が取り付き、傾斜を見下ろせるようになっている。案内してくれた方によると、傾斜の下の壁に画を投射することを意図したという。窓には視界が邪魔されないように柱が落ちていない点にも着目すべきだろう*2
そして、これらの操作によって外部空間に扇形の、現象としてのボリュームが明確な意図を伴って立ち上がってくる。扇形のボリュームは、アアルトの設計したヘルシンキ工科大の建築などに見られるようにアアルト建築の形態のボキャブラリーのひとつである。
さらにいえば、そうしたデザインによって内部と外部が逆転したような効果を訴えてくる点が、私はとりわけ面白く思った*3

*1:参考:北欧建築ゼミ アアルト>アトリエ・アアルト http://hokuouzemi.exblog.jp/i30

*2:見えないところで構造的な工夫がなされているはずだ。サッシは仕方が無いだろうが。

*3:この点については、武藤章アルヴァ・アアルト』(鹿島出版会)でも述べられている。