井上章一『夢と魅惑の全体主義』
- 作者: 井上章一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/09
- メディア: 新書
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全体主義とは、イタリアのファシズム、ドイツのナチズムに代表される政治原理で、ブルジョワ民主主義の思想や制度を標的とし、自由民主主義を批判したものである。
そうした全体主義を建築や都市という物的な観点から切ったのが本書。ヒトラーが第三帝国の様式をとなえ、ベルリンに南北軸計画やそれに関わる諸建築を、ファシストを率いるムソリーニがローマなどの都市(大通りや記念碑など)をいかに計画し、形作っていったのかが記されている。以前ワルシャワを訪れ、個人的に興味をもった「スターリン様式」(本書ではスターリン・デコと呼ばれている)についても詳しい。
いわゆる「日本ファシズム」についても頁が割かれ、軍人会館型*1の建築についても触れられているが、興味深いのは、著者がそれを非ファッショであると説くところ。軍人会館と旧東京帝室博物館の二例を挙げ、帝冠様式を「日本ファシズム」というのが一般的だが(そして私もそう捉えていたが)、中国東北地方(旧満州)の建築などを加え包括的に捉えると、中国風の屋根を取り入れ中国の民族にあわせたり、あるいは古典主義的な建築を建てたりと、日本の30年代の建築にファッショ性は薄いのではないか、と考察している。
ともあれ本書で興味深いのは、ヒトラーやムソリーニ、スターリンらの権力が建築をいかに使い、民衆を引き寄せたのかというところと、もっと根源的な、建築の持つモノとしての視覚的な魅力について。また、日本が満州で見せたようないわゆる植民地建築についても、それぞれの国の様式(ひいては文化)が混ざったりとスケールが壮大で面白い(政治的な話は控えるが)。