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開発業者勤務(東京・仙台) → 四国松山へUターン。建築・都市・街・不動産・観光などに関するメモ。

ふじようちえん

立川にあるふじようちえん(設計:手塚貴晴+手塚由比、2006年)の内覧会に行く。

緑が青々としてきた、五月の今日みたいな晴れた日が好きだ。横浜線で八王子、拝島経由で向かう電車の車内からは緑が多く見える。
駅に着き、15分ほど歩いて訪れた幼稚園からはケヤキがにょきにょきと生えていて、屋根の上まで突き出して迎えてくれた。五月の晴れた日にこの建築を訪れられたのが嬉しい。

「ふじようちえん」は佐藤可士和さんがディレクション。佐藤さんが手塚貴晴+手塚由比さんに建築を要請してデザイン。築36年、老朽化した木造園舎の建て替えであり、500人という園児を受け入れる大規模な幼稚園ができあがった。

平面は楕円形。手書きのスケッチから起こされたというこのプランは正楕円ではない。平屋に並ぶ教室は家具でゆるやかに区切られていて、ところどころにトップライトが落ち、あるところではケヤキが建物の中を突き抜けている。屋根の上は木デッキが貼られ、子どもが走り回るのだそうだ。


この建築は手塚さんの住宅の延長線上にある建築のように感じられた。それは、佐藤さんが魅せられたという「屋根の家」をスタートにしているからだろうか。オンドル式床暖房、角舘政英さんのはだか電球、設計者のデザインした薪ストーブ、全開できる引戸*1など、手塚さんの住宅建築に見られる数多くの要素が詰まっている。そして、子どもに「体験」してもらうというデザインを下支えしているのは、手塚さんの住宅と同様の「気持ちのいい」質にあるはずだ*2
天井高の2.1mという寸法も、園児の大きさに合わせただけでなく、屋根の上と下やまた中庭との親密さのためだろうし、やや傾斜した屋根(屋上ではないと語っていた)は、「屋根の家」などで手塚さんのいう土手の傾斜の良さに関する論理*3と同じで、「中心がない」というものの求心的な中庭のようなつくられ方をしているように感じた。屋根の端からは、手すりから足を出して座ることもできる。大人の足が入るが園児は落ちない、という考えられた寸法。


私はこの幼稚園のコンセプトがしっかりと確立されているところに好感を持った。公共的な建築がただの箱になるかどうかという問題は発注者とデザイナーの関係の問題でもあると私は思うのだが、この幼稚園からは、まるで住宅を作るときの施主と建築家にような良好な関係が見て取れるように感じたからだ。建築だけではなく、園服、ロゴデザイン、サインなどもデザインの対象になっているが、幼稚園でここまでやってしまうのもすごい。
こうした強力なコンセプトには賛否両論があるだろうが、個人的には、親御さんが嫌なら入園させなければいいといいし、ダメなら淘汰されればよいと思う。私自身は、子どものいる生活か…などと一瞬考えてしまった。そういう質を持つ良い建築。
園長の加藤さんのビジョン、佐藤さんのディレクション、手塚夫妻の具体的なデザイン―これらの三者が理想的な形で協働し、生まれた幼稚園だと思った。


ただ、内覧会はすごい人数。建築関連の学生や出身者がうじゃうじゃいて何人かの知り合いにも会ったが、同じような人が一堂に会するのはなんとなく、うわーっていう感じだった。それと個人的には、幼稚園とはいえ、レイブでもしたらとても楽しそうだなと思った。

*1:これにしても楕円の平面を走らせるのだからいろいろとスタディしたはずだ。

*2:冬は寒いだろう、という批判もありそうだ。しかし、手塚さんの住宅を冬に訪れたことがあるが、大きな窓からいっぱいに差し込む太陽や、オンドル式の床暖房は快適で、私自身はそうした考えを改めさせられた。

*3:「カップルって傾いたところに座るんですよ。座ると同じ方向を向くから、沈黙も気にならないし。」(手塚貴晴さん談)など