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mezzanine

開発業者勤務(東京・仙台) → 四国松山へUターン。建築・都市・街・不動産・観光などに関するメモ。

建築的、不動産的―MVRDVのGYRE

東京・表参道に新たな商業ビル"GYRE"(ジャイル、設計:MVRDV+竹中工務店、2007年)がオープンした。

相変わらず表参道が熱い。個人的には表参道の建築の表層のデザインとインテリアについて、また不動産投資と建築とブランディングという三者がどのように展開していくのかということに注目している。
建築とそのデザインが建築史上、社会的・外的な変化に対応して変化してきたことはいうまでも無いが、これまで建築が建築の内部だけに閉じた社会、例えば技術水準の向上によるデザインの変化といった20世紀的な変化だけではなく、加えて今日の「投資対象としての不動産」としての環境の中に建築がおかれ、また変化してきたような状況を今日の表参道の建築に強く認められるように思えるからである。
これがデザインの問題として表れてきたのが建築の「表層の問題」にほかならないと思う。これについては、以前伊東豊雄さんのTOD'S表参道を例に挙げて書いたが(参考)、少し補足すると、商業ビルの場合、稼働率を引上げるためにテナントを短期的に更新してゆく必要がある。つまり、広くてテナント替えのやり易い平面が求められるわけだ。そうなると東京のような都市型の高層建築において、建築家の戦場はそれ以外の部分、つまり物質的には「表層」にならざるを得ない。
そして、商業施設に限らないがREIT(リート)の拡大もこうした状況を助長するだろうと考えている。投資家に確実な配当を行おうと思えば建築家の「実験」はなかなか許されないと考えるからだ。私たちは――少なくとも私は野心的で実験的な建築を見たいし訪れたいと思うが、逆説的に、社会的にはそのような建築を求めていないということなのだろう。

このように布置される建築の現状に私は勝手にある種の危機感をおぼえているわけだが、GYREはそうした状況からは少し変化を見せたかな、と思った。
簡単にいうと「GYREは表層建築ではない」ということである。これまで述べてきたように、表参道の一等地というコンテクストからは面積もより広くとればいい。それなのにわざわざ各フロアがずれたようなデザインを採用し、そうした操作により各フロアに少しずつ外部空間が生まれている。このようにいうと学生の設計のように聞こえるかもしれなが、これが案外興味深い。
単純にフロアを積み上げるとどうしても上下階のヒエラルキーが生まれてしまう。これは例えばデパートの婦人服売り場が下のフロアに多くとられ、その上に紳士服売り場、さらにその上にゴルフ関連の売り場が重ねられるような状況に見て取ることができる。つまり下の階が大衆的、上の階が目的的な売り場として計画されているように考えられる*1。対照的に、GYREの場合はズレがフロアごとに違った性格を与えるきっかけをつくっているように思える*2
さらに、エントランスは表参道のメイン・ストリートに面した箇所に設けられるだけではなく、東側の小道やキャットストリート沿いには階段が設けられ、そこから各フロアにアクセスできるようになっている。これには恐らく各フロアのヒエラルキーをできるだけ解消しようとする意図もあるのだろう。ビルの中が吹き抜けになっているのもその意図の表れといえるのではないか。

そして個人的には、こうした屋外の空間が東京を眺める装置的な役割を果たしうる点に興味をおぼえた。


GYREに関するそのほかの感想やメモ。
・外壁の色は渋いがなんとなく既視感。
金沢21世紀美術館の「緑の橋」(トラベル - MSN ライフスタイル参考)などを手がけた、パトリック・ブランの緑化インテリア。
MoMAデザインストアがある。
・「ずれた」外観はケヤキでよく見えない。冬に訪れたらまた印象が変わるだろう。
・シャネルのインテリアはピーター・マリーノ。
・内部は、吹き抜けのある普通の商業ビル(やっぱり)。
・表層建築ではない、といったが平面は割と常識的に解かれている。外観のずれている感じを内部空間に認めることは難しく、そうした意味ではある種、姿を変えた表層建築といえるかもしれない(これは宿題)。
・2階のギャラリーでMVRDVの企画展が開催されている。様々なプロジェクトのスタディ模型などの展示。


GYREから少し脱線。同じ表参道にある、黒川紀章さんが設計した日本看護協会ビル(2004年)はその筋の人の間でも話題にはならなかったが、表層建築にならず、あえて公共的な空間を作ったという点で、個人的には意義ある建築ではないかと思う。黒川さんが亡くなるまでの数年、参院選への出馬などで「なんだか変わった人」というイメージが蔓延ってしまったように思えて残念なのだが、この建築は、黒川さんが安易に経済至上主義に走らないような常識人だったことを示す建築なんじゃないかな、と思っている。今更だが、この駄文に代えてご冥福をお祈りしたい。

*1:もちろんそれだけではなく、例えば渋谷の「ココチビル」の7・8階に映画館・アミューズCQNを設けることによる「シャワー効果」や、一階にトップブランドを入れるなど様々な戦略があるが。

*2:やや過大評価か。