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開発業者勤務(東京・仙台) → 四国松山へUターン。建築・都市・街・不動産・観光などに関するメモ。

時を越えて「愛される」建築とは?―A・レーモンドの群馬音楽センター

建築

アントニン・レーモンド「群馬音楽センター」(1961年)


Gunma Music Center
建築正面側。外観はあまりパッとしない。


Gunma Music Center
側面にまわると、鉄筋コンクリートによる折板構造がそのまま表現されているのがわかる。


Gunma Music Center
2階の開放的なホワイエ。内部にも折板構造がそのまま表れている。壁画は設計者A・レーモンド夫妻によるもの。


Gunma Music Center
ホール内観は圧巻。開放的なホワイエとの空間的対比。折板の頂部に光が当てられた照明計画。


Gunma Music Center
舞台では中学生の楽団が当日の発表の練習中。


このところ、モダニズム建築をはじめとする20世紀の建築を再評価する風潮がところどころでみられるようになった。例えば、東京駅前の東京中央郵便局の建て替えに伴う保存や再開発反対に関し議論が起こったことは記憶に新しい。
しかし、そうした建築に関する一般的な感覚というのはどのようなものなのだろうか、と思うことがよくある。東京中央郵便局については、当時の総務大臣であった鳩山邦夫が「重要文化財の価値を有する建物」と発言したことに対して、実際のところ「この建物が?」と疑問を感じた人がほとんどだったのではないか。東京中央郵便局のような純度の高いモダニズム建築はなおのこと、その価値が理解されることは難しかったのではないだろうか。

この点については既にいくつかの議論があるが、モダニズム建築はモダニズム建築であるが故に――つまりパッと見の平凡さや「なんかフツウ」な感じから、一般的な評価を受けることが難しいのだろう。むしろ、ただ古くさい建物ととられることが往々にしてあるように思う。だから私自身は、モダニズム建築の存続を訴えるならばモダニズム建築について理解してもらう必要があるし、また、その教育(教化といえるかもしれないが)も重要だろうと考えてきた。しかし、そうした働きかけをせずとも、建築が愛されながらそこにあり続けている建築があった――群馬県高崎市にある「群馬音楽センター」をを訪れて感じたのは、そんなことだった。

群馬音楽センターは、ここで述べてきたような問題を内在する「モダニズム建築」でありながら、さらには公共建築でありながら、「愛されている建築」がここにある、そんなことを思わせる建築だった。この建築について、ある書籍ではこう記されている。

これまで30件近いモダン建築を巡ってきたが、これほど"愛されているオーラ"を発している建物は初めて見た。建物の状態もいいし、何より、周囲を見わたせば、この街がこのホールを中心に整備されてきたことがよくわかる。(磯達雄・宮沢洋 『昭和モダン建築巡礼』 日経BP社, p.64)

私が感じたのもそうしたことだった。高崎の街は、高崎城址の堀の内側に建てられたこの建築を中心に、市役所や公園などが整備されている。さらには高崎駅からこの建物に向かってのびる道路も「シンフォニーロード」と名づけられている。ちょうどこの建築を中心として街が展開されているようだ。

「愛されている」と思ったのはそうした都市構造から感じられるというものだけではない。この建築がそのような「愛されているオーラ」を放つようになったのには、前述の書籍によると、高崎に「群馬交響楽団」の活動があったこと、そしてそれが映画化されたことで音楽ホール建設の機運が高まり、設立したということが背景としてあるようだ。訪れた日にたまたま中学生の吹奏楽団による演奏会が行われていたことも、私にとってそうした思いを強くする方向に働いたように思う。学生たちが大きくなったら、ふとこの建築のことを思い出すことがあるのだろう、と。

しかし現在、この建築も例に漏れず、建て替えの話が検討されているようだ。1961年竣工だから築50年近く経つことになる。建物の躯体にはさほど問題は無いのだろうが、音楽に限らず様々な演目に対応することを考えると、恐らく設備などの不都合は生じるはずである。

私自身はといえば、この建築が失われるなら残念に思う。しかし、高崎や群馬の人々によってどんどん議論がなされればいいとも思っている。当たり前のようにそこにある建築や風景の価値は、失うことを目の当たりにすることによってしか想像力が働かないものなのだろうし、議論を経ることで、この建築や街について理解を深める契機になることと思うからだ。


  • 参考

「建替」か「改修」か(高崎市)
群馬音楽センターを愛する会」設立について
高崎新聞 > コラム&オピニオン より
群馬音楽センター(オフィシャル)

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