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開発業者勤務(東京・仙台) → 四国松山へUターン。建築・都市・街・不動産・観光などに関するメモ。

2018年、便所で読んだ7冊

しょっぱなから汚い話で恐縮だが、2015年末から「便所で本を読む」ということを習慣化しており、3年が経った。松山在住のコーヤマさん(神山恭昭さん)が2015年に行った講演「便所哲学のススメ」で話していた内容を実践しているものだ。

今年読んだのは7冊。ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』が読めたのは良かったが、今年の半分近くの時間をこの上下巻に費やした。そのほかは建築関連ばかり読んだが、比較的手に取りやすい本が多かったように思う。

 

1、2.ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』(上・下)

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
 

なぜヨーロッパ人が他の大陸の人々を征服できたのか?そのような問題提起に対して、本書は仮説を掲げ、具体的・統計的な根拠をひとつずつ積み上げながらアンサーを論じてゆく。

その直接的な要因としては、ヨーロッパ人が銃や鉄の武器、風土病・伝染病に対する免疫、航海技術、集権的な政治機構、文字を持っていたからだといい、「銃・病原菌・鉄」という本書のタイトルはそれらの要因を端的に表している。

そして、それら「銃・病原菌・鉄」を得るためには、様々な技術や免疫を発達させるうえで必要な人口の稠密と定住が必要で、その前提には食料の貯蔵や余剰があって…と論理的に地道に検証していくのだが、その究極的な要因としては「東西方向に伸びる大陸(ユーラシア大陸)があったから」という地理的な条件、優位性にたどり着く。

その要因を解き明かしていく過程が上下巻にわたり細かく論述されていくのだが、その長さを感じさせない論理性や筆力と翻訳の妙が本書にはあるように思えた。

なぜヨーロッパ人が他の大陸の人々を征服できたのか。それは人種としての優劣があったからではない、と優生学的な考え方を明確に否定しているともとれた。

 

要点は下記のサイトに分かりやすくまとめられている。
http://orangestar.hatenadiary.jp/entry/2016/01/22/073000

 


3.豊川斎赫『丹下健三 ディテールの思考』

丹下健三 ディテールの思考

丹下健三 ディテールの思考

 

丹下健三に関する著作といえばまず挙げられるのは藤森照信による『丹下健三』だろうか。丹下の建築が、その空間、特に代々木体育館の実現までの様々な構造形式の変遷と過程を圧倒的な調査量と熱量を持って描かれていた。

本書は、その藤森の記念碑的な著作に呼応するかのように、丹下建築の構造形式の変遷(ラーメン構造、折板構造、シェル、等)をたどりながら、それぞれの構造形式における代表作を解説してゆく。 それらの建築作品の実現に向け、そのディテールや施工・監理といった側面から、スタッフや丹下自身が苦悩するその様子を見てとることができる。

なかでも今治市庁舎や愛媛県民館といった愛媛県の丹下建築について論じられているものはこれまでにも目にすることが少なかったのだが、これらの建築について扱われているのでとても参考になった。今治市庁舎も単純な折板構造ではなく、梁としての変形を小さく強くするために頂部にかたまり(コブ)を設けて、丹下の望む表現には至らなかったものの、現在の耐震基準にも合致するスペックを持つようになった、等。"God is in the details."月並みだが、この言葉をあらためて思い出す。

丹下建築といえば、代々木体育館や東京カテドラルマリア大聖堂にみる圧倒的な空間の力や造形を持つものであったり、広島の平和記念公園のような都市計画的なスケールを伴う作品が代名詞的に扱われるが、そうではない作品を拾い上げながら丹下を再評価してゆく試みが近年なされているように思う。本書もそうした中の一冊だ。

 

 

4.フェルナンド・チュエッカ ゴイティア『スペイン建築の特質』

スペイン建築の特質 (SD選書)

スペイン建築の特質 (SD選書)

 


建築史やデザイン理論に関する優れた解説を読むということには推理小説を読み進めるようにパズルを解くような面白さがあるが、本書はその面白さを久しぶりに感じられる一冊だった(単純に今年の読書量が少なかっただけともいえる)。

スペイン建築はヨーロッパのほかの場所の建築とは異なる。それはアラブ・オリエント文化とキリスト教文化というそれぞれ異なる文化の影響を受けたから――本書はその特殊性、歴史と魅力を論じている。

個人的には、本書の主要論文「スペイン建築の生粋な不変元」(不変元=変わらざるもの)で論じられている、スペイン建築におけるイスラム建築とキリスト教建築の融合、イスラム建築の影響に関する内容が面白かった。

ここではいわゆる西洋建築ととイスラム建築を対比的に扱っているのだが、例えば西洋の空間は連続的で透視効果があり、ある点に向かう空間であるといい、イスラム建築は不連続の空間(「量子」「分節空間」)で、特に円柱とスクリーンによる仕掛けが備えられているという。

f:id:ida-10:20181226131855j:plain 図 p78より

イスラム建築の空間デザインの手法についても、

ひとつながりの空間(室)でありながら、天井高さや天井のデザイン(舟底天井、小ヴォールト、平天井など)を変えるとともに、楕円のアーチなどを用いて空間(室)を分節する

スペイン・イスラム建築は「ヴォリュームの建築」であり、円弧や球面を避けた立体と多面体を用いた明確なヴォリューム表現がスペイン建築の特徴

といった特徴があるという。このようにスペイン建築の特徴が写真やスケッチとともに丁寧に解説されており、その理解を深められる一冊であった。

 

 

5.403architecture [dajiba]『建築で思考し、都市でつくる』

403architecture[dajiba] 建築で思考し、都市でつくる (現代建築家コンセプト・シリーズ24)

403architecture[dajiba] 建築で思考し、都市でつくる (現代建築家コンセプト・シリーズ24)

 

3人の建築家を中心として浜松を拠点に活動する「403architecture」の50のプロジェクトが収められている。

403によるプロジェクトはセルフビルドあるいはそれに準ずるような小規模な改修工事によるものが多いのだが、本書は一般的な建築家の作品集のようにプロジェクトを個々に紹介する形ではなく、それぞれのプロジェクトに共通する考え方や設計アプローチなどを「タグ」と呼んで整理した上でタグごとに紹介するという手法がとられている。

プロジェクトに充てられるタグは、材料転用・既存応用・慣習ずれ・新旧混成・等価空間・単位反復という6つ。例えば「渥美の床」という天井の野縁を細かく切って床の仕上材として並べたプロジェクトには「材料転用・慣習ずれ・新旧混在・単位反復」という形で複数のタグが充てられた上で紹介される、といった具合だ。

これらのタグの意味や意図については本書の終わりにあるメンバーの橋本氏の論考を読むと理解できたのだが、この論考ではロウやヴェンチューリなども参照され、自身の作品を建築史に布置していくような意識も見て取れた。言い換えれば、自身の作品に対して一定の距離をとりながら批評的に向き合っているようで、そのことを面白く感じられた。

 

 

6.佐久間悠『建物改修・活用のための建築法規』

 建築のリノベーションや用途変更に関する法規について、実際に筆者が行った改修や用途変更に関する実例をもとに、図面や写真などを用いながら解説している。
これまでの法規に関する書籍等は建築士などの専門家向けに書かれたものがほとんどだが、本書は主に事業者向けに書かれており、分かりやすい。結果的に、実務者にも大いに参考になるように感じられた。

本書では下記の実例が収められている。どの事例も著者らが事業者とどのように向き合い、合意形成を行い、事業・プロジェクトを進めていったか、その過程が描かれている。


・居住用施設への改修…シェアハウス、ゲストハウス、店舗付き住宅等
・福祉系施設への改修…保育園、老人福祉施設、障害者支援施設等
・商業系、宿泊施設、工場等への大規模な改修…オフィス、店舗、ホテル等

 

 

7.馬場正尊+Open A『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ

エリアリノベーション:変化の構造とローカライズ

エリアリノベーション:変化の構造とローカライズ

 

これまでの社会・都市はマスタープラン型(=演繹法的計画)の都市計画・まちづくりによって作られてきたが、新しい方法論として、活発な場所が複数の場所で同時多発的に生まれ、共鳴し合って繋がってゆくネットワーク型(=帰納法的計画)へのシフトチェンジが求められている。

本書では、行政主導のマスタープラン型でなければ助成金や自発的な良心に依存した手法でもない、デザイン・マネジメント、コミュニケーション、プロモーションなどがバランスよく存在する新しいエリア形成の手法を「エリアリノベーション」と呼称し、6つの街をケーススタディとして分析・構造化している。

6つの地域は下記のとおり。いずれも、風景が目に見えて変化し、継続し、経済的に自立し、かっこいい街だという。

6つの地域を分析すると、基本構造として次の3つが共通点として挙げられるそうだ。

 1.空間ができるプロセスの逆転

これまでの空間づくりのプロセスは、「計画する人」(建築家、行政)→「つくる人」(ゼネコン、工務店)→「使う人」(事業者、テナント)という順であったが、まず空間を使う人が使い方や場所を探し出すといった「プロセスの逆転」が生じている。

 2.職能を横断するプレイヤーの登場

計画する人・つくる人・使う人それぞれがプロジェクトの全体の当事者となっており、「計画する人であり、作る人であり、使う人である」といった職能を横断するキャラクターが登場している。

 3.街を変える4つのキャラクター

変化が起こり継続する基本構造には4つのキャラクターの存在がある。なお、一人一役ではなく一人が複数の役割を担う場合もある。

・不動産キャラ/調整する人
・建築キャラ/空間をつくる人
・グラフィックキャラ/世界観をかっこよく発信する人
・メディアキャラ/情報を効果的に発信する人

 

個人的には、長野市善光寺前で展開しているMY ROOMの事業・活動が紹介されているのが参考になった。尾道や北九州などの活動については他の著書やwebでも多く取り上げられるが、長野の取り組みはあまり拾われていないように思っていた。長野では倉石さん頼りの属人的な動きをしていると思っていたが、そこから事業会社のようなプロジェクトベースの取組みを行っていることも新たに知り、興味深く捉えられた。

2017年、便所で読んだ9冊

2015年の年末頃から「便所で本を読む」ということを続けている記録。便所だけでコツコツ読む、といったルール。

2017年には9冊のみで、2016年の半分程度。慌ただしい時間でも便所で毎日続ける、というのが肝要なので少しさぼってしまって反省。

傾向としては、商業(施設)系と、都市形成史のような分野に関する読書をしている。

 

1.野澤千絵『老いる家 崩れる街』

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

 
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2016年、便所で読んだ16冊

便所で本を読むということ

新年早々に汚い話で恐縮だが、2015年の年末頃から「便所で本を読む」ということを続けている。便所で座っている間は読書の時間。2016年にこれを習慣化することを年間目標のひとつに定め、継続することができた。

一応、便所で本を読むことについては自分なりのルールを定めていて、それは

1.便所で読む。
2.一冊ずつ読む。
3.飛ばし読み・斜め読みをしない。
4.読んだ日などを記録する。
5.メモや感想を残す。

…というものなのだが、たとえ仕事などが忙しくても1ページでも本が読めるというのはなかなかよい。

2016年に読んだものを数えてみると、年間16冊。自身の仕事や活動のベースである建築・都市・まちづくり関連を中心に、網野善彦による歴史書、冨山和彦による経済書など。それら一年間で読んだものを記録して紹介したい。

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