二度目の愛媛マラソン
先月の話ですが、2月7日に愛媛マラソンを走ってきました。二度目の愛媛マラソン。ランニングのポータルサイト"RUNNET"で人気投票1位にもなったことがあり、1万人が走る全国でも人気のマラソン大会です。
愛媛マラソンのコースは、松山の中心である松山城の「城山公園」を起点に、坊っちゃん列車の汽笛を聞きながらのスタート。途中、約40mの高低差のある通称「平田の坂」を上り下りしたり、松山市北部の旧北条市では遠くに瀬戸内を眺めたりして、また松山城の足元まで戻ってくる。そんな感じです。
青い線が往路約20キロ、赤い線が復路20キロ。ほぼ同じところを行って帰ってくる感じです。
私の場合、マラソンを走ると、練習の過程も含めてその土地への愛着のようなものが芽生えてくるんですね*1……で、松山市の北部、旧北条市のエリアが過半を占める愛媛マラソンでは、どうしてもこの北条のエリアが気になってくる。
さらに、ほとんどが幅員の広い国道を走るコース中で、生活のにおいを色濃く感じられる集落中を走るのもこの北条。沿道に応援の山車(神輿?)や太鼓が出てきてチンドンやっていたり、北条沖に浮かぶ「鹿島」へきれいに引かれた軸線上を走るということもあって、なんとなく、北条の街の歴史とか、文化なんかに思いを馳せるような……地味ではあるけれど、走りながらもそういう体験を得られるのがここかなと。松山の人でもこのエリアをわざわざ訪れる人も決して多くはないと思うんですが、そういうフィールドワークや観光的な意味合いを兼ねるような部分もまた、マラソンの面白いところだと思うわけです。
正面にこんもりと見えるのが、北条沖に浮かぶ「鹿島(かしま)」
もちろん1万人が走るような市民マラソンとなれば、県外からの参加者を獲得するような「観光」としてのマラソン(コース)、という位置付けも無視できないわけですが、観光の目玉である「道後温泉」はコースに入っていません。ランナーには参加賞として道後温泉の入浴券を配られるんですが、それでカバーしている感じでしょうか。まあ、マラソン→温泉、というのも悪くないですね。現実的には、道後温泉本館沿いをコースに含めることには困難が想像できます。
そのような観光的な観点では、新宿をスタートして東京タワーや銀座、浅草まで巡る東京マラソンや、東田第一高炉跡や門司港などを巡る北九州マラソンなどは観光資源を巡るルートとして面白そうです。かつて走ったことのある仙台国際ハーフマラソンは5月の大会でしたが、コース序盤の「定禅寺通り」の並木道の新緑が鮮やかで、かつここで仙台の"雀踊り"を行うなど、祝祭性にあふれる空間として準備していました。愛媛マラソンは対外的な評価も得ていますが、そのあたりにはまだまだ工夫の余地があるように思います。
*1:同じような経験をお持ちの方も多いんじゃないかと思うんですが。
藤村龍至 講演会 「縮小時代の建築家像-ソーシャル・アーキテクトをめざして-」
11月21日(土)は香川・高松にて建築家 藤村龍至さんの講演を拝聴。テーマは「縮小時代の建築家像-ソーシャル・アーキテクトをめざして-」。香川建築士会若手建築士研鑽事業。
いやあ、おもしろかったし勉強になりました。
ざっくりといえば、まずは戦後日本の建築史を参照しながら、丹下健三と金子香川県知事の関わりなど交えて、建築家が社会のニーズや思想にあわせてどのように建築を手掛けてきたか、という点について説明。そしてWindows95の販売や阪神淡路大震災の起こった1995年というターニングポイントを経て、現在とこれからの「縮小時代」がどのような建築を求めているのか、といった視点から、現在の建築や、藤村さんご自身のプロジェクトを紹介するといった内容。
講演の内容はtogetterにまとめられているのでご参照を。
http://togetter.com/li/904054
藤村さんの建築とその思想は、1995年をターニングポイントとする「個人のリーダーシップ」による建築から「集合的に考える」建築へという時代の変化に応じたものということなんだろうけど、それが「鶴ヶ島プロジェクト」「大宮東口プロジェクト」などのプロジェクトとして、また大学での建築教育としても成果をあげていることが理解できた。藤村さんの「超線形設計プロセス論」に代表されるようなブレない理論・思想には過去から批判的な意見も多く聞かれたけれど、しっかりと結果を残されているんだなと。
ご自身の手がけるプロジェクトには民間のものもあるけど、あらためて、藤村さんの方法論は公共建築・公共政策との相性がいいように思った。例えば講演の中でも、新居千秋さんが大船渡市に「リアスホール」を設計するにあたって市民ワークショップを54回繰り返したという方法について触れられていたように、建築のつくられ方にも変化が生じている。それは公的なプロジェクトにおける合意形成のあり方が変わってきたこと、そのトップダウン型による進め方の難しさも示しているように思う。
もうひとつ触れられていたのは、教育について。大学で教鞭を執る建築家であるプロフェッサー・アーキテクトとしての役割の変化についても論じられていたが、それもまた上述のような時代や方法論の変化に応じた取り組みを実践されているようだ。私自身、学生の時に(といっても10年以上前の話)、建築界、あるいは大学の建築設計の課題における作品・作家主義的でタコツボ的な評価のあり方に違和感を覚えていたのだけど*1、藤村さんが2010年に教育の場にも身を置くようになり、その中で建築への新たな評価の仕組みを考え、実践されていることは非常に興味深く捉えた。例えば、一学年約180人という学生に建築・設計を教育するにあたり、提案される模型の縮尺を統一して並べて見られるようにし、上位者を10人に絞るプロセスも公開して学生に見せてゆく、等。学生とともに取り組む「鶴ヶ島プロジェクト」をはじめとする集合的・段階的な計画/設計のあり方は、このような教育なしにはなしえないものだと思ったし、このような教育を経た東洋大学をはじめとする学生がどのように実務の社会に出ていくのか、そうして藤村さんのいう「これからの建築家像」がどのように更新されていくのか。そのあたりは引き続き注視したい。
時代の変化にあわせて建築を取り巻く環境も変わり、「建築」と言っても、リノベーションや公共空間・まちづくりといった分野への拡大や、あるいはPM/CMや建築家との協働…等々の職能も確立されつつあるように見える。これらはある意味で建築界の外部から新たな地平を切り拓くアプローチともとれるんだけど、藤村さんの取組みは愚直なまでに「内部」から、既存のフィールドを変えてゆく試みであるように受け取った。講演をお聞きする感じでは、それはかつて丹下健三が担った役割を上書きする試みとも受け取れた。そこに「これからの建築家像」、さらに「これからの建築像」といったものの一端が見えたように思った。
- 作者: 藤村龍至,TEAM ROUNDABOUT
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以下、講演会の中で触れられたことに関するメモ。
大学教育については、芦原義信さんらが東大で教えていた70年代は、例えば柱のスパンといった実務的な内容を主に教えていたそうだが、あるときそれが行き詰まって現在行われているような設計の講評のシステムができたという。現在の大学教育における講評のシステムの成り立ちについてはあまり考えたことがなかったが、それが有効だとされ、変化が生じたことがあったということ。
思い出してみれば、藤村さんが2000年代前半運営されていたウェブサイトで扱っていたビルディングタイプも「学校」だったはず。藤村さんの社会や公共に対する関心が一貫されているんだなと、あらためて。
香川大学で建築の授業があり建築が教えられているということを知らなかった(これは香川大学の学生による質問で気付いた)。
<朽ちる日本、朽ちる東京>について。アメリカでは世界恐慌後、1930年代のニューディールにより様々なインフラが整備されたが、それが1980年代になって朽ちていったという。1960年代に急ピッチで都市インフラが整備された日本ではそれが2010年から2020年代にかけて一斉に生じてくるだろうという。
*1:その意義も理解できる/できたし、それはそれで面白いけれど、どこか現実とは乖離しているようなゲーム的な感覚がぬぐえず、このゲームに心血を注いでよいものか、とも考えた。
道後オンセナート2014 9つの「泊まれるアート」をめぐる "HOTEL HORIZONTAL"
2014年は、四国松山にある道後温泉本館が改築されて120周年にあたる。この機会に松山市の道後で開催されているアートフェスティバルが「道後オンセナート2014」である。4月のグランドオープンではライゾマティクスによるプロジェクションマッピングが道後温泉本館を使って行われ、街にも影絵などのパブリックアートが点在するなど、道後はこれまでとはちょっと異なる様子を見せている。
今年の年末まで行われるこのアートプログラムの中核を成すのが、9つのホテル・旅館を使った泊まれるアート「ホテルホリゾンタル」。9人のアーティストやデザイナー、建築家らに、9つのホテル・旅館の各1室を「作品」化してもらうというものである。
これらのホテル・旅館の作品には実際に宿泊することもできるが、宿泊客のいないチェックインまでの昼の時間帯は有料での見学も可能*1。ここでは「ホテルホリゾンタル」の9つ全ての作品を見てまわったものを記録として残しておこうと思う。
わが魂の記憶。そしてさまざまな幸福を求めて 草間彌生×宝荘ホテル
草間彌生による、道後オンセナート・ホテルホリゾンタルの「看板」的な作品。昭和の佇まいを残す、ホテルの洋室・和室、そして広縁のそれぞれに3つの作品・空間が展開している。特に広縁の作品は夜には光るというから、宿泊客だけの特権といえる。
また、ホテル1階にはロビーの一角に「水玉カフェ」がオープン。草間カップで飲み物とお菓子が楽しめる。松山銘菓の「タルト」も赤い水玉に彩られている。作品「水玉強迫」もここで見られるほか、草間彌生のアートに彩られたショーツや靴下などが買える自動販売機も設置されている。(これは、道後オンセナートの総合プロデュースが、衣料メーカーのワコールを母体としたスパイラル(ワコールアートセンター)だからだろう)
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/kusama/
草間彌生の作品のあるホテルの隣りに位置する「道後舘」の一室には、詩人・谷川俊太郎が仕事をする部屋というコンセプトで、谷川さんが実際に使用していたパソコンや本などが展示されている。また、庭や浴室など、客室の様々なところに谷川さんの詩が散りばめられている。
この作品はホテルホリゾンタルの作品中、見学としては最長の50分間の鑑賞が可能で、抹茶やオリジナルの茶菓子を頂いたり、室内に設置されたノートに詩を書き残すこともできる。スタッフによる室内のアートの説明も丁寧で、ゆったりとした時間を楽しめた。
道後舘は建物自体が故・黒川紀章の建築作品であることも見逃せない。「はなのいえ」は、黒川さんが「花数寄」と呼ぶ数寄屋を現代風に解釈してデザインした客室と、谷川さんとのコラボレーションともいえるだろう。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/tanikawa/
楽園 荒木経惟×ホテル古湧園
客室の襖などにアラーキーの写真作品『緊縛』『PARADISE』が展示されている。オンセナート唯一の18歳禁作品。道後はかつて遊郭が置かれた地で、現在も街の一角には風俗店が軒を連ねるという色街の側面を併せ持つが、この作品は道後のそうした一面を覗かせているようにも見えた。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/araki/
Sketch 谷尻誠×道後プリンスホテル
建築家・谷尻誠さんによる"Sketch"は、客室全体をペンキで塗りたくったもの。3次元の空間に展開する、2次元の絵画のようなアンリアルな世界。この空間は身を置いて体験するだけでなく、カメラで撮影することで本当に2次元であるように見えてくるから不思議。友人や家族で訪れて互いに撮影すると、まるで絵画の世界に人が入り込んだような写真になり、インタラクティブアートとしてもおもしろいと思った。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/tanijiri/
Suuri Taiga / 大草原 石本藤雄×茶玻瑠
マリメッコのテキスタイルデザイナーを務めた、愛媛県出身の石本藤雄さんによる作品。リネン類や浴衣をはじめ、砥部焼のカップなど、隅々に石本さんのデザインが散りばめられている。見学するというより、どちらかといえば宿泊してみたいと思わせた。ホテルでは石本さんの作品も販売していた。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/ishimoto/
Time Science ジャン=リュック・ヴィルムート×道後やや
3つの時計の周囲や照明に一本一本描かれた線。そして円形のベッド。これらにより演出された空間はちょっと不思議でちょっと不気味。見学者に特典として配られる、ヴィルムートの絵が描かれたオリジナルのリネンも嬉しいお土産。作家については、越後妻有にあるMVRDVの建築内のカフェ・ルフレを手がけたアーティスト、というと建築方面の人には分かるだろうか。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/jean/
ロ 皆川明×花ゆづき
mina perhonenのデザイナー 皆川明さんの作品。床だけでなく、壁や天井にも琉球畳が一面に敷かれている。畳の香りがして、嗅覚でも楽しめる。座布団やトレイに蝶が描かれているなど、ちょっとしたデザインが隠れているのがかわいい。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/minagawa/
松山の市花でもある椿のプリントが壁全体に施されている。これらの写真はKIKIさんが市内の松山総合公園で撮影したものだそう。絨毯などもKIKIさんが持参したという。アートイベントでなくても、こんな感じで人の手が加えられた部屋ってもっとあっていいと思った。泊まってみたい作品。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/kiki/
藍 葉山有樹×ふなや
陶芸家・葉山有樹さんによる作品。江戸期に創業されたという旅館の歴史の醸し出す雰囲気にも合っていて、藍色の一色で彩られた空間が格好良かった。旅館の名前にちなんで「鮒」も描かれている。
なお、旅館 ふなやには「詠風庭」という、川が流れる気持ちのよい庭園が隣接しているが、夜には石川智一の演出によりライトアップが施されている。これもまた道後オンセナートの作品のひとつ。
http://www.hotelhorizontal-dogo.com/hayama/
ホテルホリゾンタルの9つの作品は道後エリアに点在しており、それぞれ徒歩で訪れることが可能だが*2、見学が可能な昼間の時間で周れるのはせいぜい3、4作品くらいだろうか。
ホテル・旅館の作品を巡りながら、その作品と作品との間に広がる街や道後の湯をともに楽しめるとよいだろう。道後温泉本館の周辺は近代的な街並みを見せているが、少し気を配れば、時を重ねてきた建物や神社仏閣、点在するアート、道後で暮らす人の営みも見えてくる。